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精神科看護師の役割とは?【体験談やあるあるも紹介します】
病院における、精神科看護師の役割は何かと知りたいと思ってませんか。
精神科は他の診療科と比べて特殊な領域で、看護師の役割も一般科とは違い、かなり重要なものになっています。
「精神科看護師はどんな仕事をしているのか」「チーム医療の中でどんな役割を担っているのか」を知りたい方は多いのではないでしょうか。
本記事では、精神科に興味がある看護師に向けて、精神科看護師の役割について解説します。
なお、この記事では大阪の精神科病院で10年勤務し、慢性期・急性期・認知症・男子閉鎖病棟を経験し、多職種連携に関する論文を発表したことがある筆者が、その知見を基にご説明します。
精神科看護師の仕事内容は?
精神科看護師の役割をお伝えする前に、精神科での看護師の仕事についてご説明します。
実際の精神科での仕事内容を知ることで、精神科看護師の役割も見えてきます。
セルフケアの援助
他の診療科と同様に、入院患者さんのセルフケアの援助を行います。
具体的には、環境整備、食事、入浴、排泄などの介助です。
精神科に入院される患者さんのADLはさまざまです。
完全に自立している人もいれば、精神症状によって何もできない人もいます。
精神科でのセルフケアの援助で特徴的なことが、身体機能=ADLではないという点です。
たとえば、一般科であれば「骨折をしているから歩けない。だからトイレにいけないので介助する。回復してくれば介助は不要になる」というように、身体機能の回復と共にADLが上がり、セルフケアの援助も減っていきます。
しかし、精神科では違うことが起こります。
身体機能的には問題ない患者さんが、症状によって日常生活行動に支障をきたします。
その結果、ADLが低下し、看護師の介助が必要になるということが起きます。
平たく言えば、「体は問題ないのに、頭と心がついていかない状態」です。
さらにその症状が日によって異なり、時には1日の中でも調子の波があり、自分自身でできることとできないことが変化します。これは珍しいことではありません。
自分が経験した事例を紹介します。
朝食は普通に食べられて、トイレもお風呂も問題なく入っていた患者。身体機能に問題はない。昼頃から幻聴と妄想の症状が強くなり、夕方には食事もとれず、トイレにも自分でいけなくなった。
このケースの場合は、午前中は看護師の介助がありませんが、夕方には食事の促しと、トイレへの移動介助を行うことになります。
このように精神科では、一般科と視点が違い、1日の中でも患者さんの症状に合わせて援助の内容が変わることがあります。
薬の管理
続いて、薬の管理についてです。
精神科医療において、薬物療法は大きなウエイトを占めます。
医師から処方された薬を患者さんが正しく服用できるように、看護師は関わっていく必要があります。
服薬管理についても、精神科では一般科と異なる点があります。
それは、患者さんが必ず薬を飲むとは限らないということです。
「服薬コンプライアンス不良」という言葉があるように、薬に対して不安や疑念をもつ患者さんは一定数いらっしゃいます。
ただし、少し前から「コンプライアンス」という言葉そのものを見直そうという動きが出ています。
コンプライアンスという言葉は、平たく言えば「患者さんが医師・看護師の指示に従うか」という意味があります。
しかし、納得がいかない治療を受けるのは問題ではないかという考えから、最近では「コンコーダンス」という言葉に置き換わってきています。
コンコーダンスの考え方は
「患者さんが、医師や他の職種から十分な説明をうけて、納得し、合意した上で治療をすすめる」
ということに重きを置いています。
強制的な治療が進められがちな精神科だからこそ、これからの看護師は、患者さんが納得して選択できるように服薬管理を行う必要があります。
医師や薬剤師と違って、看護師はより患者さんに近い目線でわかりやすく説明できると良いですね。
精神症状や精神機能の査定
一般科の看護師が、手術後の創部の観察をしたり、心肺機能を査定したりするように、
精神科も患者の精神状態や精神機能の査定を行います。
しかし、傷の回復具合や心肺機能と違って、人の感情は目に見えませんし、考え方は数値で測れません。
そのときに活用するのが「メンタル・ステータス・イグザミネーション(MSE)」という考え方です。
MSEでは、精神機能を評価するときに必要な項目が細分化されてまとめられています。
たとえば精神症状を評価するときには、外見、意識、記憶、認知、感情、意欲、思考、知覚、自我の9つの項目に分けて考えます。そうすることで曖昧な表現にならず、看護師同士や他職種と情報を共有しやすくなります。
しかもMSEの良いところは、すぐに実践に活用できる点です。
精神科に初めてきた人は「精神科の患者さんの精神症状をどう観察したらよいかわからない」と悩みますよね。
そんなときにMSEを使えば、「とりあえずこの9つの項目を見ればいい」と分かります。
つまり、観察すべきポイントが明確になるのです。
そして、さらに先輩看護師たちがアセスメントしているときも、「いまは記憶と認知の話をしているな。いまのは知覚かな」と情報を整理することができます。
そうしていくうちに、自然と精神科看護の視点が身についてきます。
後述しますが、このMSEこそが精神科看護師として求められるスキルであり、他の領域に誇れるスキルだと思います。
自信を持って精神科の看護師として働くために、MSEは覚えておいて損はありません。
医師やその他職種との連携
精神科の患者さんは様々な疾患や症状があり、生育歴や病歴も千差万別です。
多様な患者に関わるために、他職種との連携が必要不可欠です。
医師、看護師だけでなく、臨床心理士、公認心理師、作業療法士、精神保健福祉士、管理栄養士など、それぞれの領域のスペシャリストが協力することで、患者さんにとって最適な医療を提供できるようになります。
そして、その中心にいるのが看護師です。
特に精神科では日勤帯だけでなく、夜勤帯の様子も大切な情報になります。
睡眠状態はもちろん、夕方~夜、夜~翌朝の患者の様子によって治療の進め方も変わってきます。
それらの情報を唯一持っているのが看護師です。
精神科で働くと、他の領域以上に医師や他職種から頼りにされます。これが精神科看護師の魅力のひとつです。
医師から一方的に命令されて、横柄な態度をとられていることに疲れている看護師さんは、精神科で医師と対等な立場でいききと働いてみませんか。
精神科看護師の役割や必要な資格
前述の項目に合わせて、精神科看護師の役割について説明します。また、精神科看護師に必要な資格についても解説します。
セルフケアの援助は看護師の役割
患者さんのセルフケアの援助を日常的に行うのは、看護師の大きな役割です。
昼夜問わず、患者さんの一番近くで日常生活を支えるのは看護師の仕事です。それは精神科でも変わりません。
食後薬や頓服薬の管理
薬の処方は医師が行いますが、実際に患者にお渡しするのは看護師です。
精神科では内服に抵抗がある患者も多く、その不安に寄り添い、服薬の必要性を患者さんに伝える役割を看護師は担っています。
また、診察での医師からの説明が難しかった場合、患者さんへわかりやすく薬の説明をすることもあります。
これも精神科看護師の役割です。
精神科では、幻聴や妄想などの陽性症状や精神症状に対して、頓服薬を使用することが多くあります。
たとえば「4時間あけて1日3回まで」と医師指示があるときに、1日の中でどのようなペースで頓服を使うのか。
患者さんの症状や様子に併せて頓服を使用するタイミングを考えることは、精神科の看護師の大切な役割です。
医師と患者さんの間に挟まれながら、食後薬と頓服薬の使い方を検討することは精神科看護師のあるあると言えるでしょう。
精神科に長くかかっている患者さんであれば、「午前は調子いいから朝食後の薬を1錠減らして、それを昼15時くらいに頓服で飲みたい」と自分で内服調整をしようとされます。
その意見を医師に伝えつつ、看護師視点の意見も合わせて伝えます。
そうしながら患者さんにあった薬物療法を進めていきます。
精神科あるある?医師よりも看護師が治療の中心になることも
前述のとおり、精神科では医師や心理士とチームになって患者さんと関わります。
その中で、看護師が他職種も含めて最も患者さんの普段の様子を見ることができます。
加えて、他職種に情報を提供することも多いです。
また、患者の異変を早期に発見し、他職種へ報告することも重要な看護師の役割です。
若い医師とベテランの看護師であれば、看護師の方がイニシアティブをとって治療を進めていくことも珍しくありません。
精神科看護師になるうえで、特に必要な資格はありません
精神科看護師になろうとする際に、特別必要な資格はありません。
一般科に勤めた経験がある方は、それだけで精神科で働くときに強い武器になります。
精神科では薬の副作用で悪性症候群が見られたり、身体的な負荷がかかることもあります。
一般科で培われたフィジカルアセスメントのスキルは、精神科でも十二分に活かせます。
また、精神科で働き始めた後に、特定の分野を極めることは非常におすすめです。
認知症、うつなど疾患別に極めたり、認知行動療法や精神分析など治療法別に極めるのも面白いでしょう。
私の場合は…
私は、精神科看護師2年目のときに、精神科患者さん向けの糖尿病教室を立ち上げ、その活動の一貫としてフットケアの勉強を少し専門的に行いました。
また、急性期病棟にいたときには、認知行動療法をベースとした集団心理療法のチームを立ち上げ、認知行動療法については詳しくなりました。
その過程で医師と心理士さんと仲良くなり、看護協会と関係ない勉強会にも参加させてもらい、看護研究も行いました。
精神科に来る前から何か資格を修得するよりも、精神科で働きながら自分が深めたい領域を見つけ、研修や勉強会に参加するという方が効率的でコスパが良いです。
まずは気楽に肩の力を抜いて、精神科看護の世界に足を踏み入れてみてください。
精神科看護師の1日のスケジュール
ここで実際の精神科看護師が1日どのような仕事をしているのか紹介します
日勤のスケジュールの一例
8:30 | 朝礼。朝食の片付け。朝食後薬の与薬・確認。 |
9:00 | 朝のバイタルサイン測定。 |
※ | 患者面談、頓服の対応、入浴介助、買い物、OTの誘導、検査など |
12:00 | 昼食配膳。昼食後薬の与薬・確認 |
15:00 | 喫茶など、レクリエーション活動 |
※ | 患者面談、頓服の対応、入浴介助、検査、医師からの指示受けなど |
16:30 | 記録 |
17:00 | 退勤 |
大まかにこのようなスケジュールで働いています。
病棟や病院にもよりますが、一般科に比べて、前残業や終業後の残業は圧倒的に少ないです。
情報収集や点滴の準備のために極端に早く来る必要はありません。
少なくとも、私の10年間の経験の中で前残業は一度もありません。
精神科看護師の忙しさを決めるのは、上記の表の「※印の時間帯」です。
簡単に仕事の内容を記載しましたが、これはほんの一例です。
おむつ交換もあれば、患者間のトラブルに介入したり、水分の制限がある方にお茶を配ったりします。
精神症状が悪い患者のところへいき、落ち着けるように面談を設定することもあります。
この「※印の時間帯」が暇だと感じるなら、患者さんと関わってゆっくり話を聞くのも良いですし、患者対応に追われて、気付けばもう次の食事の時間がくるということもよくあります。
精神科看護師は使えない?
精神科で看護師が重要な役割を担っているという一方で、精神科看護師は使えないという声もあります。
実際に精神科看護師が使えないと言われるのか、この章で解説します。
使えないと言われる理由は?
精神科の看護師が使えないと言われる一番の理由は、「身体面の観察・アセスメントが不得意な人が多いから」です。
実際に精神科に入院される患者さんが、身体疾患を持っていることは多くありません。
糖尿病のような慢性期疾患はありますが、積極的な治療を要するような身体疾患はほとんど経験しません。
そのため、どうしても一般科よりも身体疾患への理解を深めたり、検査・処置の技術を磨く機会は少ないです。
結果として、必然的に修得できるフィジカルアセスメント能力や、処置の技術などは一般科の看護師には劣るかもしれません。
精神科で習得できる知識や経験は他の診療科でも活かせる
しかし、精神科だからこそ修得できる経験や技術もたくさんあります。
たとえば、認知症のBPSD(行動・心理症状)と呼ばれる周辺症状への対応や、ユマニチュードを取り入れた関わり方は積極的に行い、1年も働けば、ある程度の認知症患者さんへの対応はできるようになります。
仮にできるようにならなかったとしても、認知症患者さんへの関わり方やアセスメントの方法については理解できるようになります。
また、うつをはじめとした気分障害の患者さんに対しても、対象把握の方法やうつ症状の具体的な関わり方のポイントや、リスクアセスメントの考え方を身につけることも可能です。
超高齢化社会において、軽度の認知症を抱える人は少なくありません。
これからの時代の看護師にとって、認知症看護は必須スキルです。
また、ストレス社会で年々自殺者が増える現代社会において、うつ病や抑うつ傾向がある患者さんを相手にどのように関わるのかは、看護師にとって非常に大切なことです。
認知症看護もうつ病の看護も、精神科で働けば身につけられるスキルですが、これから先どんな領域でも活かせる力です。
実際に、私の後輩で精神科経験2年半で母子医療センターに転職した人がいます。
その人は身体管理は苦手でしたが、精神科でうつの患者さんを何人も見てきたため、うつ病の知識や対応は十分できる人でした。
その後輩は、母子センターでのマタニティブルーやその他、出産そのものについて思い悩んでいる人への対応はすべて任されるほど重宝されていました。
後輩自身も、「精神科での経験がこんなに活かせるとは思わなかった」と手ごたえを感じながら語ってくれました。
スキルに不安がある場合は院内の研修や院外の研修を活用しよう
とはいえ、やはりフィジカルアセスメントが出来ないことに不安を抱く人もいるでしょう。
しかし、大丈夫です。
いまは、院内研修制度や外部研修への支援体制が整っている病院も多いです。
それらの教育制度をフル活用して、自分に必要なスキルを身につけましょう。
ただし、すべての病院が自分の望むような教育体制を整えているとは限りません。
転職するなら、事前に教育体制を確認しておく必要があります。
しかし、ホームページ上で教育体制の有無程度しかわからず、具体的にどのような内容をおこなっているのか、転職して来た人に対しての教育体制がわかりにくいこともあります。
そんなときには転職エージェントを活用してみるのもオススメです。
転職エージェントの担当者は、医療業界を担当しているケースも多いので、病院やクリニックの内情を深く知っています。
そのため、「教育体制が整っている病院が良い」と転職エージェントの担当者に伝えることで、希望通りの病院を紹介してもらえる可能性も高いです。
教育体制が整っている病院を探したい場合は、転職エージェントの無料相談だけでも活用してみてはいかがでしょうか。
内部リンク
精神科看護師はなぜきついといわれる?
精神科看護師は、他の診療科と比較しても頻繁に「きつい」という意見を聞くかと思います。そこでここからは、実際にきついのかという点と、その理由をご説明します。
精神科がきついと言われる原因は?
精神科で働くと「きついでしょ」と言われることがあります。
一番の理由は、暴言暴力があるということでしょう。また症状や病気のイメージがしにくく、対象の理解や関わり方が難しいと考える看護師も多いようです。
ここでは、精神科のきつさやしんどさの原因やその対処法について解説していきます。
精神科が特別しんどいことはない
結論、精神科だけが特別しんどいということはありません。
むしろ、前述のとおり前残業や終業後の残業も少ないため、身体的には楽だと言えます。
精神的にはストレスに感じることもあります。
それは人間というのは、自分が分からないもの、理解できないものに対して強い不安を抱く生き物だからです。
働いたことがない精神科に対して、不安を抱くことは当然です。
実際に働いていくにつれて理解が深まり、自然と不安も軽減されていきます。だからご安心ください。
精神科看護師に向いてる人は?
ここまで精神科看護師の役割について解説してきました。
それでは精神科看護師に向いている人はどういう人でしょうか?大きく3つの特徴があると考えます。
- 自己管理が出来る人
- 頭が柔らかい人
- 精神療法や対人心理学に興味がある人
精神科に限らず看護師は不規則勤務で生活リズムが不規則になりがちです。
自己管理が出来る人は仕事も安定して良い仕事が出来ますし、精神科の看護師にも向いていると言えるでしょう。
また精神科では様々な境遇の方、多様な価値観を持った方が入院されます。
多種多様な患者さんに対応するためには、自分の価値観に固執していてはいけません。
頭を柔らかくして広い視野で患者さんをみることが大切です。
さらに精神科看護師として専門性を高め、自信をもって看護をするためには、精神療法や対人心理学などを用いたコミュニケーションを行うことが必要です。
それらを修得しようとする意欲がある方は精神科看護師に向いています。
.詳しくは、下記の記事をご覧ください
→精神科看護師に向いている人の特徴は?【体験談や仕事内容も解説】
まとめ
今回は精神科看護師の仕事内容やチームの中での役割について紹介してきました。簡単にまとめます。
- 日常生活をよく知る看護師がチーム医療の要
- 特に精神科では看護師の担う役割が大きい。
- 精神科看護師は使えない、きついと言われるがそんなことはない
- 一般科に負けないように胸をはって精神科で働いてますと言えるようになりましょう
この記事を読んで、精神科看護師のイメージが明確になり、精神科への転職の不安や迷いが解消できれば幸いです。さらに、詳細な精神科看護師への転職について知りたい場合は、下記の記事も併せてご覧ください。